CPP03 1.0
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仮想継承とは (Virtual Inheritance):

仮想継承は、C++ における多重継承の際に発生する可能性のある「ダイヤモンド継承問題 (Diamond Problem)」を解決するための仕組みです。ダイヤモンド継承とは、以下のような継承構造を指します。

A
/ \
B C
\ /
D

この構造において、クラス D はクラス B と C の両方を継承しており、さらに B と C は共通の基底クラス A を継承しています。この場合、D のオブジェクトは A のメンバーを B 経由と C 経由の2つの経路で継承してしまう可能性があります。これはデータの重複や曖昧さを引き起こす原因となります。

仮想継承を使用すると、コンパイラに対して「指定された基底クラスのサブオブジェクトは、継承階層内で一度だけ存在するようにする」と指示できます。


仮想継承の仕組み:

仮想継承を実現するために、C++ コンパイラはいくつかの特別な処理を行います。

1. 仮想基底クラスの識別:

‍仮想継承を指定するには、派生クラスの基底クラスリストで virtual public または virtual protected キーワードを使用します。

++
class B : virtual public A { /* ... */ };
class C : virtual public A { /* ... */ };
class D : public B, public C { /* ... */ };

2. 間接的なポインタ (Virtual Pointer):

‍仮想基底クラスを持つ派生クラスのオブジェクトは、通常、仮想基底クラスのサブオブジェクトへの直接的なオフセットを保持するのではなく、間接的なポインタ(またはオフセット情報)を持ちます。これは、仮想関数テーブル (vtable) の仕組みと似ています。

3. 共有されたサブオブジェクト:

‍最も深い派生クラス (D の場合) のコンストラクタが、仮想基底クラス (A) のコンストラクタを直接呼び出す責任を持ちます。これにより、A のサブオブジェクトは D のオブジェクト内で一度だけ構築され、B 経由と C 経由で共有されます。

4. オフセットの調整:

‍仮想継承された基底クラスのメンバーにアクセスする際、コンパイラは実行時に間接的な情報(ポインタまたはオフセット)を使用して、共有されたサブオブジェクトの位置を特定します。

仮想継承の効果:

1. ダイヤモンド継承問題の解決:

‍仮想継承の最も重要な効果は、ダイヤモンド継承における基底クラスのメンバーの重複を解消し、曖昧さをなくすことです。D のオブジェクトは A のメンバーを一つだけ持つようになります。

2. メモリ使用量の削減 (場合による):

‍基底クラスのサブオブジェクトが一つになるため、場合によってはオブジェクト全体のメモリ使用量を削減できます。ただし、仮想ポインタなどの間接的な情報を持つためのオーバーヘッドが発生する可能性もあります。

3. コードの明確化:

‍仮想継承を使用することで、継承の意図がより明確になります。共有されるべき基底クラスを明示的に示すことができます。

仮想継承の注意点:

1. コンストラクタの呼び出し:

‍仮想基底クラスのコンストラクタは、最も深い派生クラスのコンストラクタによって直接呼び出される必要があります。中間の派生クラス (BC) のコンストラクタリストで仮想基底クラスのコンストラクタを呼び出しても、それは無視されます。これは、仮想基底クラスの初期化の責任を最終的な派生クラスに集約するためです。

2. <strong>パフォーマンス:</strong>

‍仮想関数と同様に、仮想継承による間接的なアクセスは、非仮想継承に比べてわずかなパフォーマンスオーバーヘッドが生じる可能性があります。ただし、通常はその影響は軽微です。

3. 設計の複雑さ:

‍仮想継承は強力なツールですが、継承階層が複雑になると設計が難しくなることがあります。仮想継承が本当に必要な状況かどうかを慎重に検討する必要があります。

EX03 における仮想継承の意義 (補足):

EX03 の DiamondTrap の例で仮想継承を使用すると、DiamondTrap オブジェクト内に ClapTrap のサブオブジェクトが一つだけ存在することになり、ClapTrap のメンバー(例えば name, hitPoints, energyPoints, attackDamage など)へのアクセスが曖昧になるのを防ぐことができます。また、ClapTrap のコンストラクタも DiamondTrap のコンストラクタから一度だけ確実に呼び出されるようになります。

ただし、EX03 の課題の意図としては、仮想継承を必須とするのではなく、多重継承における名前の衝突やアクセス経路の曖昧さを理解させることが主眼である可能性があります。そのため、仮想継承を使わずにスコープ解決演算子 (::) を用いて明示的にアクセスする方法で問題を解決することも、課題の意図に沿っていると考えられます。

まとめ:

仮想継承は、多重継承におけるダイヤモンド継承問題を解決し、基底クラスのサブオブジェクトの重複を避けるための重要な仕組みです。適切に使用することで、より明確で効率的な継承階層を構築できますが、コンストラクタの扱いなど、いくつかの注意点があります。継承の設計においては、仮想継承が必要かどうかを慎重に検討することが重要です。